2011/03/16 聴覚障害の方への支援

◆話し方
 ・聴覚障害のある人に口の動きがよく見えるように、ゆっくり、はっきり話すことが大切です。
 ・ なるべく短い文章で、文節ごとに区切って話しかけるとよいでしょう。
 ・ なるべく静かなところで、顔がみえるように近づいて話します。

◆聴覚障害のある人から助けを求められたときの配慮

 聴覚障害のある人は、通常は外見から見分けがつきません。また、自分から聞こえないことを意思表示することが少ないのです。聞こえていないことに気づいたら、文字で伝える工夫をしてください。

 ・交通情報や安全な場所などの大切な情報は、筆談で正確に伝えてください。
 ・電話を代理でかけることを依頼されたら、筆談で電話先、依頼内容や返答内容を
  確認しながら進めてください。
 ・筆記用具がそばにない場合には、手のひらに指先で字を書いて伝えたり、空間にゆっくり、
  ひらがなで字を書きながら、口の形をはっきりさせて話します。

◆避難所では、「何が、どこで、何時から」あるかなど必要な情報は紙に書いて貼ってください。



2011/03/16 災害時の障害者への支援 追記

この度の震災では、多くの障害をもつ人々が避難所で不自由な暮らしを強いられています。
遠方の専門職などが直接支援に出向くことは現在困難ですが、言語聴覚障害者を中心に、
障害者に対する支援方法をご紹介しておきます。

◎失語症の方への支援
★失語症とは
 ■大脳の言語を司る部分(言語中枢)が、脳卒中や頭部のけがで傷ついた時に起こる言語障害です。
 ■失語症の人は、聞いて理解する、話す、読む、書くなどに障害がみられます。
 ■失語症の症状や程度は人によって違うので、個人の症状や程度に合わせた対応が必要です。
★失語症の人とのコミュニケーションの取り方
 ■ゆっくり落ち着いた態度で接しましょう。
 ■話しかける時はゆっくり、はっきりと。
 ■センテンスはなるべく短くすると理解してもらいやすいです。
 ■文字や絵、実物を同時に示すと理解が深まります。
 ■イエスかノーで答えられる質問をして、言いたいことを引き出すのが有効です。
 ■予想される答え紙に書き、選んでもらうことも役に立ちます。
 ■失語症の人が話そうとする時はゆっくり待ちましょう。
 ■どんどん答えを先取りしないで、落ち着いて話を聞くことが必要です。
 ■混乱が出てきたら、少し休憩しましょう。
 ■文字の一部や絵、図を書ける人もいるので、筆記具を用意しておくとよいでしょう。
 (完全な筆談ができるわけではない)
 ■「あいうえお」の50音は失語症の人には使えません。
 ■失語症の人は知能・感情は正常なので、プライドを傷つけるような対応をしないようにしましょう。

★失語症について詳しくは以下の冊子をご覧ください。
 「失語症の正しい理解と支援」(pdfファイル)

◎言語聴覚障害を含む障害者への支援に役立つサイトです。
 ★「災害時の障害者に対する支援方法のまとめ」(株式会社ミライロ・ブログ)

◎自閉症については以下のサイトで詳しい情報が得られます。
 ★日本自閉症協会

◎中越地震・中越沖地震を体験した言語聴覚士が、その時の経験をアンケート調査でまとめたものです。
 「言語聴覚士の経験 中越地震・中越沖地震のアンケートのまとめ」(pdfファイル)

新たに情報が得られれば掲載していきます。



2011/03/14 災害時の障害者への支援

この度の東北関東大震災では、多くの言語聴覚障害者を含む障害をもつ人々が避難所で不自由な暮らしを強いられています。
遠方の専門職などが直接支援に出向くことは現在困難ですが、障害者に対する支援方法をまとめてくれたサイトがありますのでご紹介します。多くの人に広めていただければと思います。

「災害時の障害者に対する支援方法のまとめ」(株式会社ミライロ・ブログ)



2010/7/15 障害者自立支援法改正法案は廃案!
NPOちゅうぶ通信6月号

5月末に突然、自公および与党合意のもとに出された自立支援法の改正案は、第174回通常国会が6月16日、閉会することで廃案となりました。この動きにはDPI(障害者インターナショナル)や全国の団体から強い抗議の声が寄せられ、5月8日から連続して国会前集会や抗議行動が行われ全国から仲間が集まりました。昨年春の通常国会で旧政権が提出した法案とほぼ同じで自立支援法延命法案ともいえ、何より障がい者制度改革推進会議という政府が作った当事者中心の動きを自ら否定するものなのです。廃案となりましたが、与党の枠組みも変わり、選挙結果も含め、政治情勢にも要注意です。
DPIの緊急アピールは以下のとおりです。

「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない!」
「障害者自立支援法一部改正案」「地域主権改革」に関する緊急アピール
 「障害者自立支援法一部改正案」が議員立法で今国会成立へとの寝耳に水ともいえる動きが、5月下旬から進められてきた。
 私たちDPI荷本会議は、「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない」を合言葉に、障害者自立支援法に異議を申し立て、全国の仲間たちと連携し、これまで粘り強い運動を展開してきた。
 昨年9月に成立した民主党政権は私たちの声を真摯に受け止め、障害者自立支援法を廃止し、当事者参画の新法制定を約束した。そして長妻厚生労働大臣は、昨年の10月30日、日比谷野外音楽堂で行われた全国大フォーラムにおいて、参加者1万人の前で「自立支援法を廃止し、みなさま(障害者)や家族の意見に謙虚に耳を傾けながら、新しい制度をつくりたい」と述べた。
 また、障害者自立支援法違憲訴訟では、「訴訟団」は国の和解案を受け入れ、国との間で制度改革に向けての「基本合意」を1月7日に取り交わした。さらにこの基本合意の実施を検証するために、国・厚労省と「訴訟団」との定期協議が行われている。
 さらに昨年12月に設置された「障がい者制度改革推進会議」では精力的に議論が重ねられ、6月7日に「障害者制度改革mの推進のための基本的な方向(第一次意見)」がまとめられた。また、推進会議のもとに設置された「総合福祉部会」では、障害者総合福祉法(仮称)制定までの「当面の課題」がまとめられ、同日、推進会議に報告された。
 こうした動きの一方で、4月27日に自民党、公明党によって「障害者自立支援法一部改正案」が提出された。この自民党、公明党の案に対するヒアリングがJDF加盟団体を対象に5月12日に民主党厚生労働政策研究会によって開催された。
 このヒアリングにおいてDPI日本会議としては、あくまでも総合福祉部会で、新法制定までの「当面の課題」について議論の途上であり、現時点での法改正ではなく、必要な対策は予算措置で精力的に行うべきものであるとの意見を述べた。なおこのヒアリングにおいては与党による具体的な法律改正の考えはまったく示されなかった。
 その後、5月20日、与党と自公両党は、障害者施策にかかる3法案(障害者自立支援法、障害者虐待防止法、ハート購入法)の国会提出を目指すことで大筋合意したとの新聞報道がされた。
 この「障害者自立支援法一部改正案」の動きに関しては、与党と障害当事者・関係者の話し合いが全くされておらず、障害者自立支援法が当事者の意見を聞かず成立したことへの反省がまったく活かされていない。今回出された法案は、昨年の通常国会で旧政権が提出した中身をほぼ踏襲するものであり、「谷間の障害者の問題」や「移動支援」、「手話通訳のコミュニケーション支援事業」の市町村間格差の問題は何も解決されていない。さらに、障害者の自己決定を損なう恐れのあるサービス利用計画拡大の問題等もある。
 こうした当事者抜きの進め方に対して、6月1日の推進会議・総合福祉部会で怒りの声が相次ぎ、「一部改正が情報提供もなく進められたことに対して、部会構成員一同は強い遺憾の意を表する」との決議がなされた。さらに、推進会議から6月11日に同様の意見表明が推進本部長である総理大臣に行われた。
 先述の通り、推進会議では「第一次意見」がようやくとりまとめられたところであり、これに基づいて制度改革が始められることに大きな注目と期待が集まっていた。
 画期的とも評価されてきた「障がい者制度改革」の仕組みを自ら否定するようなことを政権与党は行うべきできはない。同様の問題が「地域主権改革」の中でも出てきている。
 政府ならびに与党は、今一度マニフェストに基づいて自らが作った障がい者制度改革推進本部・推進会議の意義を再確認し、「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない」の原則に立ち戻るべきである。
 本日、「第26回DPI日本会議全国集会in愛知」に集まった私たちは、障害当事者の声を聞くことなく作成された同法「改正」案の廃案に向けて最後まで粘り強く取り組むことを確認するとともに、以下の点を強く求めるものである。

1.今国会提出の「障害者自立支援法一部改正案」を廃案とし、新しい総合福祉法のあり方とそれに向けた当面の課題に関する、障がい者制度改革推進会議並びに同総合福祉部会の議論を踏まえ、今後の対応を行うこと。
2.国・厚労省が障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と約束した基本合意を完全に実現させること。
3.地域主権改革の中で行われている障害者施策の見直しについては、障がい者制度改革推進会議の議論・意見を踏まえること。

第26回DPI日本会議全国集会in愛知 参加者一同
2010年6月13日



2010/1/13  福祉サービス障害者負担は  権利条約批准法整備めざす    朝日新聞

 障害者自らが制度作りに参加する「障がい者制度改革推進会議」の初会合が12日開かれ、今夏をめどに制度改革案の骨格を示すことを決めた。障害者の差別を禁じた国連の障害者権利条約を批准するための国内法整備を目指す。政権交代で廃止が決まった障害者自立支援法にかわり、福祉サービスの利用者負担を決める制度の論議も本格的に始まった(中村靖三郎)
改革推進会議初会合
 改革推進会議のメンバー24人のうち14人は、障害のある人やその家族ら。福祉サービス利用の際に原則1割の自己負担を課す自立支援法などが当事者不在で作られ、強く批判されたことから、障害者らが主体的に制度構築に参加する態勢とした。
 この日の会合では、障害者施策を担当する福島瑞穂・内閣府特命担当相が「改革の具体的な検討を進めていくための、いわばエンジン部隊」会議を位置づけた。
 そのうえで福島氏は、障害者施策の基本理念を定めた障害者基本法の抜本改正▽障害者自立支援法に代わる障がい者総合福祉法(仮称)▽障害者差別禁止法−の3点について、夏までに骨格を示す方針を提案した。いずれも障害者権利条約の批准に必要だとして障害者団体などが対応を求めていたものだ。
 最終的には会議の方針を踏まえ、全閣僚でつくる「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)を経て、基本方針を閣議決定する考えだ。同本部では、当面5年間を改革の集中期間として、関係省庁の施策の見直しを進めていく。
 同会議で議論すべき課題は山積している。この日は、事務局トップで障害がある東俊裕・同会議担当室長=内閣府参与=が大枠の論点を示した。その内容は、「障害」や「差別」の定義をどうするのかといった根本的問題から、虐待の通報義務者の範囲などぐたいてきなものまで約100に上るという。
 一方、障害者自立支援法を廃止した後の新制度のあり方では、同法の違憲訴訟原告団らと厚生労働省が今月7日に合意した基本文書に論点が盛り込まれた。@市町村民税非課税所帯には利用者負担をさせないA介護保険の優先原則を廃止B実費負担の早急な見直し−などの指摘をもとに、厚労省が利用者負担のあり方などを検討することが明記された。
 ただ、厚労省で進める検討と推進会議の議論との役割分担は明確でなく、今後の意見調整が課題だ。
 今後は月2階程度の協議を予定している。初会合は会場の都合で一般傍聴が認められずに障害者団体から批判が出たことから、毎回、会議の模様をインターネットで配信して公開していくことも確認した。



2009/12/09 障害者施策に障害者 
  政府の改革本部  当事者が参加へ    朝日新聞

 政府は8日の閣議で、障害者がかかわる制度を集中的に改革する「障がい者制度改革推進本部」(鳩山由紀夫首相)を内閣に置く方針を決定した。全閣僚で構成し、下部組織に障害者を入れることで、当事者の意見を制度設計に反映させる。障害者団体が施策立案に加わることを求めていた。
 改革推進本部の下に設ける実務組織の障がい者制度改革推進会議(仮称)は、メンバーの半数以上は障害者団体の関係者を起用し、トップには障害者の当事者を充てる方向で調整している。同会議は、本部が決める障がい者制度改革推進計画の案に意見を述べるほか、制度改革に関する事項を調査、審議する。
 年内に推進本部の初会合を開き、年明けから本格的な協議を進める。当面5年間を「改革の集中期間」と位置づけて取り組む。障害者施策を所管する福島瑞穂消費者担当相は8日の閣議後の記者会見で、「当事者の意見を大いに反映するようにと考えている」と説明した。
 本部の設置方針は、民主党のマニフェスト(政権公約)にも明記されている。政権交代直後に、長妻昭厚生労働相が福祉サービス利用の際に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の廃止方針も表明。同法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」の制定や、障害者施策の基本理念を規定した障害者基本法の改正などが検討課題になる。



2009/12/05 障害者 権利条約で前へ 
 元国連委員会議長 マッケイ氏に聞く    朝日新聞

 障害者に対する差別を禁じた国連の障害者権利条約。2006年に国連総会で採択されたが、日本はまだ批准していない。国連の障害者権利条約特別委員会議長を務めた、ニュージーランド外務貿易省特別顧問のドン・マッケイ氏(61)が来日したのを機に、条約が目指す社会について聞いた(及川綾子)
社会の側が配慮 差別なくそう
−障害者権利条約をまとめる過程で、障害者はどうかかわったのでしょうか
 「この条約の交渉過程で障害者団体が『Nothing about us, Without us (私たち抜きに、私たちのことを決めないで)』と発言し、非常に重要な点となった。今まで障害がある人は、自分たちに関する政策決定に関与できず、他の人が決めてしまっていた。障害者自身が参加して条約を作り、交渉過程においても鍵になる役割を果たした」
−障害者は、審議にどのような形で参加したのか
 「障害者団体の代表は、政府代表とともに参加し、平等に発言し、非公式協議の場にも加わった。会議場も車椅子の氷魚が入れるようにし、視覚障害の人には点字や支援機器が使えるようにした。この結果、日常生活で最も切実に問題を感じている人たちの知恵や経験が条約に反映された。 
−条約は締結国に対して、障害のある人への差別を無くすために「合理的配慮」を求めています。どういった配慮なのか
 「新しい概念で、条約交渉に携わったメンバーでも聞いたことがない人がほとんどだった。障害のある人が、他の人と同様に社会生活を送れるよう、社会の方で必要な変更や調整をすることだ」
 「例えば車椅子の人を雇う場合、職場にたどり着くためのスロープの設置が合理的配慮になる。合理的配慮は、個人に着目した概念で、一人ひとりの事情に対応する。障害自体が不利益をもたらすのではなく、適切な対応ができていない社会に問題がある。ただ、零細企業で、経済的に大きな負担になる場合には求めない。
−すでに条約を批准している母国ニュージーランドの障害者施策の取り組みは
 「手話が公用語として認められている。また、入所施設を徐々に解体し、障害者が地域のマンションやアパートで暮らすようになってきた。地域の中で障害のある人たちが暮らすことは、地域社会に全体にとってもプラスになる。
−日本は条約批准に向けて、障害者施策の見直しを始めました
 「条約が求めているのは、障害がある人たちが施策の対象者になるのではなく、施策決定に主体的な役割を果たすことだ。その第一歩として必要なのは、障害のある人たちが『何を望んでいるか』に、社会の方から耳を傾けること。意思の表明にさまざまな支援が必要な人もいるが、障害があるからといって夢や希望がないと決めつけてはならない」
日本の当事者も関与 批准はまだ
 障害者権利条約の交渉過程では、国内12の障害者団体で構成される日本障害者フォーラム(JDF)が、特別委員会に当事者ら200人を派遣した。日本は07年9月に条約に署名したが、国内の法制度を整える必要があるため、批准には至っていない。
 国内の障害者施策の基本理念を定める障害者基本法は改正から5年が経ったため、今年が見直しの時期になっている。JDFは障害者基本法の改正とは別に、障害者差別禁止法(仮称)の創設を求めている。
 また、就労の場での差別を禁じる法制度を整えるために、厚生労働省の諮問機関、労働政策審議会の障害者雇用分科会で議論が進んでいる。採用や労働条件などで障害を理由にした差別を禁じ、障害者が働きやすいような合理的配慮を使用者に義務付けるといった内容が盛り込まれる。
 民主党は政権公約(マニフェスト)で、条約の批准に必要な国内法の整備を行うための「障がい者制度改革推進本部」の設置を掲げている。JDFは、当事者を推進本部の常勤スタッフとするよう要望している。
キーワード
障害者権利条約の批准への課題
 世界に障害者は6億5千万人にると推計される。国内で、障害者と認定されている人は人口の6%程度。障害者団体は、身体の欠損や知能指数に偏った認定になっており、発達障害や難病、難聴の人たちが制度のはざまに置かれていると批判している。「合理的配慮をしていなこと」を条約では差別と定義しているが、障害者基本法は差別を定義しておらず、国内法の整備が必要とされている。



2009/12/03 ニッポン人脈記 漢字の森深くF 
   「障碍」の文字 社会変える

 普段の生活でよく使う漢字を一覧にしたのが常用漢字表だ。国が選び、あくまで使用の目安だが、社会への影響は大きい。
 兵庫県芦屋市に住む豊田徳治郎(74)は、来年秋に向けた常用漢字表の改訂作業を祈る思いで見守っている。
 「障害者ではなく障碍者と書けるようにしてほしい」
 豊田には苦い体験がある。高度成長期を商社マンとして生き、会社も起こした。家は妻に任せ、長男の実(47)とは親子らしい会話もない日々。1995年、実が統合失調症と診断される。でも何もできなかった。
 2000年に仕事を退き、初めて息子と向き合う。「自分は一体何をしてきたのか。贖罪しかない」。ボランティアで障害福祉に取り組むうちに、障害者という表記が気になった。「害のある人と誤解されかねない。名は体を表しますから」
 三十数年前のソウル駐在時代の記憶がよみがえる。日本語がよくできる取引先の部長に尋ねられた。「韓国では障碍者と書く。日本ではなぜ害なのか」。答えられなかった。
 障害も障碍も戦前から妨げの意で使われていた。害には災いの意味があり、害悪など否定的なイメージが強い。なのに障害が使われ、定着した背景には、国の漢字施策がある。
 敗戦の翌46年、膨大な漢字に手を取られていては国の発展は望めないと、使用を制限する当用漢字表(1850字)ができる。だが制限すべきではないという声も強まり、81年の常用漢字表(1945字)では目安とされた。この間、碍は一貫して採用されていない。
 今年1月、改訂作業で最初の試案が公表されると、碍の採用を求める意見が20件も寄せられた。豊田が副理事長のNPO法人「芦屋メンタルサポートセンター」もそのひとつ。精神障害者に代わる言葉として、心的障碍者と提唱している。
 米国では障害者をチャレンジド(challenged)と呼ぶことがある。挑戦すべき試練を神から与えられた人。豊田は日本語でもこんな言葉がほしい。まずは「障碍」からだ。
 豊田は5月、「tokujirouの日記」というブログを始めた。碍について発信している。最初に応えたのが日本語学者の當山日出夫(54)で、「敬意を表します」と伝えてきた。豊田が実のことを書いたのも、目的達成には目立つ覚悟も必要と當山に助言されたから。
 立命館大などで教える當山は、黒板に書く時に赤のチョークは絶対に使わない。色覚異常のある人は見づらいためだ。奈良市内の寺の住職でもある。
 10月に2度目の試案が公表され、碍はやはり採用されなかった。使用頻度が低く、熟語も障碍以外には碍子と融通無碍ぐらいしかない。そんな理由だからだった。當山は言う。
 「障害や人権にかかわる漢字には、使用頻度とは別の判断基準が要ります。その意味で、障碍の碍は政治的な文字なんです」
 當山は豊田と意気投合した。賛同者を募り、精神保健福祉の推進のために行動する「みんなげんき倶楽部」を、11月20日に東京で発足させたばかりだ。
 企業にも変化がある。
 マイクロソフト最高技術責任者の加治佐俊一(50)は昨年初め、自治体では「障がい」と表記している例があることに気づいた。部下で全盲のプログラマーに尋ねてみると、害を使わない動きが出ているという。
 うかつだった。日本版ウィンドウズ製品の開発責任者を長く務め、障害者への配慮を心がけてきたのに。「マイクロソフトではなぜ迷いもなく、害虫の害を使ってきたのか」。社内で議論し、製品や文書の表記で障害を障碍と改めることにした。
 最初の試案には碍の採用を求める意見を送った。10月に発売した基本ソフト「ウィンドウズ7」も障碍を採用している。豊田からのメールでブログを知り、共感する。
 「あの方の主張がきちんと受け入れられたら、社会は優しい方向へ向かう気がします」
 文化審議会国語分科会会長の林史典(68)は、2度目の試案をまとめる時にこう発言していた。「碍は微妙な問題なので、結論はまだ出さない。最終案までさらに考えたい」
 可能性は残っている。(白石明彦)



2009/10/28 私の視点 自立支援法廃止 多様な施設を認める制度に
   杉本啓子 言語聴覚士、NPO法人副代表   朝日新聞

 鳩山由紀夫首相が国会の所信表明演説で障害者自立支援法の早期廃止に向けての検討を表明した。自立支援法の問題として、障害者がサービスを利用する際の「応益負担」が取り上げられているが、問題はそれだけではない。施設の多様な業態が認められなかったため、障害者のニーズにきめ細かく応えてきた小さな事業所が補助金を受けられなくなり、いくつも閉所に追い込まれた。
 私たちのNPO法人コミュニケーションーアシストーネットワークは言語聴覚障害者の社会参加支援を目的としており、活動の一環として失語症に特化した身体障害者デイサービス「すももクラブ」を05年に設立した。
 脳卒中の後遺症などで言葉が思うように出なかったり、人の言葉が十分に理解できなかったりする失語症では、人によって程度の差はあるが、職場復帰や社会参加が困難になる人が多い。介護保険のデイサービスなどでも認知症や聴覚障害との違いを正しく理解してもらえず、疎外感を味わう人も少なくない。失語症の人たちが仲間と共に会話を楽しみ、趣味や創作活動を行える施設は極めて少ない。
06年の自立支援法の施行で、事業体系がそれまでの支援費制度から大きく組み替えられた。私たちの小さい施設は最低利用人数や障害区分などの基準が厳しい国の「自立支援給付事業」にはなれず、自治体の事業である「地域活動支援センター」になった。その結果、収入は半減し、経営的に苦しい状態が続いている。
 この自治体事業に対しても、補助金拠出の条件に、最低利用人数などの施設基準が設けられている。失語症や盲聾などの障害に特化した施設は、利用人数はさほど多くないがニーズは高い。重度障害者や重複障害者のニーズにきめ細かく応えられるのは小規模の事業所だからこそ、といえる。
 基準を満たせなかった小さな事業所がとうとう閉鎖に追い込まれたときくと、ひとごとではないと思う。
 こうした不合理を厚生労働省にただすと、「国としては厳格な基準を適用する意図はなく、自治体の裁量に任せている」という。一方自治体は「国が補助金を出す条件として示している施設基準は順守すべきだと考えている」という。国が制度設計した際の意図が自治体に十分伝わっていないのかもしれないが、元々は自立支援法が多様な事業形態を認めていないことに、私たちのような小規模の施設が苦戦する原因がある。
 新制度は、こうした多様な事業形態を包括するものであってほしい。また地方自治体は国の「基準」にいたずらに縛られることなく、弾力的に運用する力をつけてほしい。



2009/9/19 障害者自立支援法の廃止表明=全局に事業の仕分け指示−厚労相  時事通信

 長妻昭厚生労働相は19日、同省内で記者団に対し、福祉サービスの利用料に原則1割の自己負担を課している障害者自立支援法を廃止する意向を表明した。その上で「連立(政権)の中で詳細な合意をいただく。どういう制度にするかも今後詰めていく」と述べ、新たな制度設計に着手する考えを示した。
 現行の自立支援法は、ホームヘルプなどのサービスの利用料を原則1割負担する「応益負担」となっているが、利用すればするほど自己負担が増えるため、「障害の重い人ほど負担も重くなる」などと批判が上がった。政府は先の通常国会で、利用者の収入に応じる「応能負担」に改めた改正案を提出したものの、廃案となっていた。
 これに対し、民主党はマニフェスト(政権公約)で、自立支援法を廃止し、利用料を「応能負担」にするとともに、障害者本人の声が反映される「障がい者制度改革推進本部」を内閣に設置することなどを提言。社民、国民新両党との連立政権政策合意にも「利用者の応能負担を基本とする総合的な制度」の創設を盛り込んでいた。
 厚労相はまた、省内の無駄遣いの排除を徹底させるため、事業の仕分けを行い、優先順位の低い5事業や、売却可能な資産を選定、報告するよう全部局に指示したことを記者団に明らかにした。



2009/8/22(夕刊) 障害乗り越え1票を 代筆OK 家族同伴も NPOが冊子  ネット公開  毎日新聞

 衆院選を前に、言語聴覚障害者の社会参加や人権擁護などを目的に活動するNPO法人「コミュニケーション・アシスト・ネットワーク」(CAN、大阪市淀川区)などが、失語症の人が投票する際の手引きを作った。「受付をスムーズにしたい」「候補者名がわかりにくい」といった疑問に丁寧に回答。インターネットのサイトでも公開している。(坂口雄亮)
 失語症患者に手引き
 失語症は、脳卒中など脳の病気や事故の損傷で起きる言語機能の障害。思っている言葉が出てこなかったり、違うことを言ってしまう症状や、話しを聞いても理解できないなどの症状が出る。全国で約50万人の患者がいるといわれる。
 CANは、失語症の人に投票などに関するアンケートを実施。約420人の回答を基に、投票の際の問題点などを整理し、解決策をまとめた17ページの冊子を作った。「受付で整理番号を言われたが、失語症なので誰のことを言っているのか分かりにくかった」。さまざまな問題点が浮かび上がり、この質問には「受付までは家族や友人が同伴できる」と説明。「一緒に行ってもらって、やりとりに間違いないように」とアドバイスした。
 筆記が困難な場合があり、「投票机で、どう名前を書いていいのか分からなくなった」との質問もあった。これには「字を書きにくい時は代筆を頼む」などの解決策を提示。「代筆をする第三者が投票内容を漏らせば罰せられます」とも記し、安心感を与えるよう工夫した。
 また車椅子の利用者には「車椅子のまま利用できる低い机を選挙管理委員会が用意できる」などと、投票所の使いやすい方法を紹介した。
 冊子ではこのほか、郵便投票や期日前投票の方法なども説明。末尾には選管に提出する改善要望書のひな型もつけた。CANは「障害の有無にかかわらず投票できるような条件の整備が必要だ」と話している。



2009/7/9 障害者雇用差別禁止を法制化へ 厚労省が議論開始    朝日新聞

 厚生労働省は8日、働く場での障害者差別を禁じる法制度づくりに着手した。日本が07年に署名した国連の障害者権利条約の批准に向けた対応の一環。募集・採用や労働条件、労働環境などで障害を理由にした差別を禁じ、障害者が働きやすいような「合理的配慮」を使用者に義務付ける内容が盛り込まれる。
 労働政策審議会(厚労省の諮問機関)の障害者雇用分科会がこの日、法制化に向けた議論を始めた。新法をつくる案もあるが、企業に一定割合の障害者雇用を義務付けている障害者雇用促進法を改正する案が有力で、来年の通常国会への法案提出を目指す。
 焦点になりそうなのは、障害者権利条約が求める「合理的配慮」をどう規定するかだ。職場での合理的配慮は、使用者の過度の負担にならない限り、個々の労働者の事情に応じて必要な環境を整えることを意味し、配慮を欠くこと自体が差別とされる。
 国内ではなじみの薄い合理的配慮の概念について、厚労省の研究会は、通訳や介助者らの人的支援▽通院や休暇、休憩など医療面の配慮▽バリアフリーなど施設・設備面の配慮−が必要とした。
 条約の批准に向けては、障害者政策の基本理念を定めた障害者基本法の改正に向けた作業も政府・与党で並行して進んでおり、やはり合理的配慮をどう定義するかが焦点の一つになっている(江渕崇)