アツキヨ 著
講談社 2003年 1000円+税
−詳細−
平均聴力100dBの重度感音難聴者の著者が「歌姫」になる夢をあきらめず、「考えるより前に勝手に体が動いて行動する性格(本書)」で突き進み、先が見えないボイストレーニングを積み重ねてやっと夢をかなえた、ポジティブな生き方が綴られた一冊である。
「高音急墜型」という、低音が聞こえるため日常生活では聞き取れる音もあるが、言葉の理解や学習には大きな支障をきたす聴覚障害のため、幼いころのことばの訓練に母子で泣きながらがんばる様子から、高校卒業までは健聴者の中だけでの生活、聾学校専攻科で音のない世界をはじめて知り、そして「サインボーカル」というあらたな表現方法をみつけて、「聴覚障害だから」とあきらめかけていた幼いころからの夢を実現するための努力。
いずれのときも著者のキャラクターからいつも明るいメッセージが伝わってくる。若い時に”夢をあきらめない”と言うのは、健常者・障害者に関係無いテーマである。
「アツキヨ」のパートナーであるアツシの手助けでうたのレッスンが行われる、そこには聞こえない音の高低を自分で探り、声に出す難しさが立ち塞がる。これは見えないのに、思いまねく色を創り出して、キャンバスに絵を描くような、とてつもなく困難な作業である。
目立ちたがりで、ひたすら前向きな考え方の源となっているのは、新生児期に受けた腹部の手術のおおきな傷跡を、「大切な勲章」と言って育てた両親のかかわり方だろう。
音の無い世界から、こころとからだで歌いあげる「アツキヨ」の音楽が聴こえてくる。